画家 綿引明浩 連載エッセイ no.1

01.jpgヴィオ・ドブレ/シエロ
2007 クリアグラフ カラージェッソ 93.0×93.0cm


 小さい頃、僕は漫画家になりたいと思っていました。毎日のようにストーリーを考えては、自分だけのキャラクターを紙に描いたりして過ごしていたものです。今にして思えば、それがアーティストとしての始まりだったかもしれません。

 それぞれの作品にあるストーリーは、身の回りにある日々の些細な出来事から発想を得たものです。それをノートやスケッチブックに書きためて、実際に作品を制作する際、一見するとバラバラとしているイメージを、ひとつの物語へと組み立てていきます。

 そこに登場する各々のキャラクターの事を、僕はキャスト(配役)と呼び、アトリエでは彼等が次の出番を待っている訳です。彼等は芝居を演じる俳優達のように、その都度作品に現われて、一つの舞台を創りあげる演出家と役者のように、演目(作品)によって厳しいオーディションを受ける事になります。そうして出来上がった作品で、国籍や性別、あるいは時間も越えた何か不思議な世界を展開していきたいと思っています。

 今回、表紙に登場する作品『ヴィオ・ドブレ/シエロ(空)』は、さえずりが音楽になって空へ飛び立って行く......そんな包み込まれるような音楽の美しい空間をイメージして制作しました。中心にいる柔らかな羽を持つロビン(駒鳥)は音楽の化身で、様々な空間と遊び色々な世界へと旅をします。

 この作品はクリアグラフと言うオリジナル技法で描いています。透明なアクリル板に色を重ねていく、紙やキャンバスとは全く違う趣を持つ絵画です。この技法はアニメーションのセル画からヒントを得て、何度も試行錯誤を繰り返して出来上がりました。また、ガラス絵と同様に裏から描いていくと言った特徴があるので、最初に置いた色がとても重要になります。ここから即興性といった要素も生まれます。この作品のテーマである音楽の世界でも即興性が心地よい楽しさを奏でる事があります。

 こんな観点からも、作品と音楽との嬉しい共通点を見つけています。

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*このエッセイは2009年5月から2010年3月まで、アルトマーク社『クレデンシャル』誌に掲載されたものです。

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