画家 綿引明浩 連載エッセイ no.8

08.jpgハッピースノー
2008 クリアグラフ・カラージェッソ 25.0×18.0cm

 クリスマスが近付くこの季節、大人気なくいつもワクワクしてしまう。通りにはイルミネーションが輝き、店のショーウィンドウも賑やかだ。

 今回の作品「ハッピースノー」は、そんな12月のある広場が舞台。クリスマス・イブの夜、人々は広場に集まって、大きなツリーにささやかな願いを込める。これは不思議な鳥達が集まったツリー。おまじないと共に鳥が羽を振ると、広場にはフワフワと白い雪が舞い始め、ささやかな幸せに包まれていく...。

 1985年の12月、最初の個展が東京で開かれて以来、この師走の時期は、いつも何処かで展覧会をやっている。もちろん、作品は勝手に完成してくれないので、ほぼ毎日アトリエに引き蘢った状態で、黙々と制作をする。そして展覧会が始まると、静かな日々から一転、会場で沢山の人と会って、沢山の話しをする。作家になって、ちょっと変ったクリスマスシーズンを過ごしているなぁと、つくづく思う。それでもクリスマスを楽しみにする気持ちが残っているのは、きっと懐かしい記憶のせいだろう。

 子供の頃は、自分の親兄弟をはじめ、若い叔父や叔母も一緒に暮らす大所帯だった。甘いものが大好きだった僕は、クリスマスに食べるケーキを本当に楽しみにしていた。だから、この日は小学校から急いで帰って来る。夜、大人達の「ただいま」の声が聞こえると、いつもは煎餅が置かれた食卓の上に、大きなデコレーションケーキが1つ2つと並び始める。父親、そして働き始めたばかりの若い叔父や叔母が、それぞれ大勢いる家族の為にと、奮発してケーキを買って帰るのだ。その夜は、こうして3つのデコレーションケーキが勢ぞろいする。

 「いただきま〜す!」。目の前にある輝くような光景に、感動で胸がいっぱい。クリスマスだけの贅沢な時間を満喫できる夜だ。しかし、そうそう沢山ケーキを食べられる筈もない。ちなみに当時は、生クリームではなく、保存が効くバタークリームケーキが主流だったので、こってりとした甘さもなかなかの強敵だった。当初の幸福感は無惨に打ち砕かれ、何でクリスマスだけにケーキが集中するのかと、恨めしく思ったりさえした。

 色鮮やかなデコレーションケーキが食卓に並んだ光景は、今でも良いクリスマスの思い出として、心をフワッと暖かくしてくれる。

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*このエッセイは2009年5月から2010年3月まで、アルトマーク社『クレデンシャル』誌に掲載されたものです。

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